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離婚調停を申し立てたい方へ

この記事を読むのに必要な時間は約 13 分です。

1. 離婚調停を申し立てたほうが良い場合

協議で離婚できれば一番良いのですが,当事者同士の協議ではなかなか前に進まず,かえって事態が悪化してしまうことも多々あります。その場合,早期に調停手続に移行することが賢明ですが,考えられるのは以下のようなケースです。

相手が離婚しないと言っている

相手が離婚を強く拒んでいる場合,直接離婚を求めても埒があかないでしょう。そればかりか,かえって相手を頑なにし,離婚拒否の気持ちをより強くしてしまうことすらあるかもしれません。
その場合,調停を申し立てると,中立な第三者である調停委員を通して話をすることができるため,頑なな相手からも,離婚したくない本当の理由を確認することができるでしょう。
そこを手がかりに,離婚に向けた話し合いが進行することがあります。
また,法律上の離婚理由がある場合には,最終的には裁判での離婚ということになりますが,法律上,裁判の前に,まずは調停を申し立てなければならないとされています。このため,早めに調停を起こしておくことで,最終的な解決も早くなるといえるでしょう。

財産開示・財産分与をしてくれない

開示

財産分与をしてほしいのに,相手が財産開示に非協力的で,ご自身で一定の調査を尽くしても相手の財産が不明であるにも,調停の申立が必要でしょう。
調停になったら,まずは双方とも,財産の調査に必要な書類を提出するよう求められますが,調停委員や裁判官という第三者から,法的根拠をもとに,財産の開示を強く求められれば,相手が財産を開示する可能性が高くなります。そのため,それだけでも調停を申し立てるメリットがあるでしょう。
それでも,相手が,財産調査に必要な書類を提出しなかったり,必要な情報を隠している節がある場合には,「調査嘱託」という手続を取ることも考えられます。調査嘱託とは,裁判所を通じて第三者(例えば金融機関等)に,情報を開示させる制度です。
これは,裁判所による手続のため,協議の段階では利用することはできません。そのため,相手が財産開示に応じない態度が強固な場合,速やかに調停手続へ移行した方が良いでしょう。
ただし,調査嘱託は,調査してほしい方が申し立てなければならないことや,裁判所がこれを採用するのには一定のハードルがあることからすれば,専門家である弁護士へ依頼したほうがスムーズでしょう。

財産分与

財産が開示されたら,婚姻後に夫婦協同で築いた財産について,通常半分を請求することができます。
調停で相手が財産分与を拒否したとしても,財産分与については審判といって,裁判官が当事者の合意によらずに決めるという手続に移行することになりますので,財産分与はなされることになるでしょう。
そのため,早期に調停を申し立てておいた方が良いでしょう。

親権に争いがある

当事者の話し合いでは難しい

未成年のお子さんがいらっしゃる場合,親権争いに悩まれる方は多く,お互いに子どもと離れたくないという思いから,当事者同士で話をしていても平行線を辿り,埒があかないというケースは多々あります。

子どものために(調査官調査)

親権の決定については,子どもの年齢(乳幼児は母親優先),双方の養育環境,従前主として監護していたのは誰か,双方の監護能力(子どもと生活して身の回りの世話をする能力),子どもの意見(概ね10歳以上),監護補助者(祖父母等,サポートしてくれる家族等)の存在等,子どもの生活・福祉にとって何が一番良いのかを考慮したうえで,決定されなければならず,裁判所にも打ち立てた場合にもそのような要素から親権が決定されることになります。

家庭裁判所には,「家庭裁判所調査官」という法律だけではなく心理学や社会学等の知識を有する専門家たる裁判所職員がいます。裁判所が必要と判断した事案に,調査官は,上記のような調査を実施し,親権者としてどちらがふさわしいのかについて,専門家としての客観的な意見を述べます。親権が本格的に争われている事案においては,ほとんどの事案で調査官による調査がなされています。

このような専門家による客観的意見は,当事者同士の話し合いに比較して格段に説得力があり,親権争いの解決の糸口になります。それによって,親権については合意のうえ,非親権者と子どもとの面会交流を充実させていくという,建設的な協議に切り替えていくことが可能になることもあります。

話し合いにならない(DV・モラハラ)

パートナーがDVやモラハラ傾向にある方の場合には,離婚の話し合いをしようとすると感情的になって暴力を振るわれたり,常に人格攻撃をされて冷静な話し合いは全くできないといったことがあるかもしれません。
このような場合には,当事者同士の話し合いはまず不可能であるばかりか,身の危険すらありますので,避けるべきです。
調停を申立て,第三者である調停委員が間に入ることで,感情的だった相手も,冷静な話し合いが可能になる傾向があります。DVやモラハラ傾向のある方も,パートナー以外の第三者の目は気にする傾向が強いからです。
また,近時,調停手続となった場合に弁護士に依頼される方は,数多くいらっしゃり,司法統計によると,双方とも弁護士に依頼している当事者と,一方だけ弁護士に依頼している当事者の割合は,合わせて50%を越えています。ですから,調停に移行した時点で半分以上の確率で相手に弁護士がつくこととなります。
このことで,冷静で建設的な話し合いが可能となることもあります。
ただし,相手にのみ代理人弁護士がついた場合には不利な条件で離婚が成立してしまう可能性が高くなってしまいます。「調停は話し合い」といっても,調停委員を介して行うものであることからすれば,調停委員を,法的根拠に基づいて合理的に説得できる方に分があると言わざるを得ないからです。ですので,遅くとも相手に弁護士が就いた場合には,弁護士に依頼することを強くお勧めします。

婚姻費用(生活費)が支払われない

夫婦には生活費を互いに分担し合わなければならないという法的な義務があります。そのため,別居をしている場合であっても,離婚が成立するまでは,収入の少ない側が,収入の多い方に対して,婚姻費用(生活費)を請求することができます(婚姻費用分担請求)。
別居後しばらくしてから婚姻費用の調停を申立てた場合には,申立を行った月からの婚姻費用の申立が認められるのであり,別居時(あるいは不払時)に遡っての請求は認められないというのが一般的です。このため,相手が婚姻費用の支払いを拒否しているようなケースでは,すぐに婚姻費用の申立を行って,権利を発生させておくことが重要なのです。
なお,婚姻費用分担調停は,合意できず不成立になった場合,審判手続に移行し,裁判所が当事者双方の言い分や収入,生活状況を考慮したうえ相当と思われる金額を審判によって決定することになります。このためいずれにせよ最終的には金額が確定します。
確定すれば,婚姻費用を請求できる側(権利者)は,支払義務を負う側(義務者)の給与や預金といった財産を差し押さえることで婚姻費用を確保することもできます。
婚姻費用の調停が成立する(あるいは審判が下される)ことで,相手方から生活費を受け取りながら,離婚について落ち着いて調停を進めていくことができるというメリットもあります(手続が長引いても負担が少ない)。
このため,弁護士が離婚の調停を申し立てる場合は,婚姻費用の支払いに少しでも不安がある場合には,婚姻費用の調停も一緒に申し立てることが多いのです。

相手と連絡が取りにくい,または,毎日しつこく連絡が来る

相手に連絡しても無視される場合には,調停へ移行させることで何らかの反応を得られるケースが多くあります。
調停を無断で欠席した場合5万円以下の過料に処すと法律に記載されており,調停には原則として出頭する義務がありますし,裁判所から呼出状が送られてくるので,それに対して何らの連絡もなく欠席するという方はごく稀です。
なお,欠席を繰り返すと調停は不成立となり,離婚裁判をすることができるようになります。さらに何の連絡もなく裁判を欠席したら,申立てた方の言い分が認められることになります。このように,相手が延々と無視を繰り返すのであれば,最終的に当方の言い分が認められる(離婚できる)ということになるのです。

また,逆に,毎日執拗な連絡が相手からきて応答に困っている場合にも,調停へ移行し裁判所を介して回答することにも一定の意味があります。お互いの言い分は調停で話し合おうと伝え,裁判外では一切連絡は取らない等と伝えることができるからです。
ただし,強制力があるわけではありませんし,どうしても必要な連絡がある場合に困りますので,直接連絡をとりたくない場合には,弁護士に依頼して,弁護士を通した連絡とするよう通知してもらうのが良いでしょう。

2. 離婚調停を弁護士に依頼するメリット

調停は話し合いの手続であることや,中立な調停委員が間に入ってくれることから,弁護士には依頼せずにご自分で対応できると考える方が多くいらっしゃいます。
確かに,法的な主張を行っていかなければならない裁判手続とは異なり,あくまで話し合いがベースであることから,当事者であるご本人でも進めることが可能な手続とされていますし,裁判よりは心理的ハードルも低いでしょう。
ただし,「手続自体を自分で進めることが可能」ということと「自分が望むように離婚の話し合いを進めることが出来るか」「自分の意向を通すことができるか」ということは別問題です。
調停は,裁判のような書面主義ではなく,基本的には話し合いで進行していきますので,調停期日当日にその場で的確な判断をし,相手との「交渉」をしていかなければなりません。初めてこのような手続に直面する方が,裁判所の密室で調停委員2名を相手に自らイニシアチブを握り,相手との交渉を進めていくことは極めて困難と言えます。
また,調停委員は,裁判官のように法律の専門家ではなく,あくまでも話し合いを仲介するだけの立場です。ですので,どうしても訴えたい相手への不満など感情的な話をお互いにしていると,当事者同士の話し合いの延長上となり,調停をした意味がなくなってしまいます。そして,調停委員もそのような事態を望んでいません。
このことから,調停委員も,論点が整理されており,また,法的根拠に裏付けられた主張をする弁護士の方の意見に理解を示し,弁護士の就いている方に優位に話し合いが進むケースが往々にしてあります。だからこそ,調停段階から弁護士に依頼する方が,全調停事件の半数を超えているのです。
そのため,自分に有利な条件で離婚を進めたい方は,調停の段階から,交渉のプロである弁護士にご依頼いただくことをご検討下さい。調停に同席してその都度アドバイスをすることはもちろん,事前にご本人のお話を丁寧にお聞きし,ご本人のご意向を汲んだ上で,ご本人に有利になる主張・情報を,抽出・整理して,説得力のある交渉することができるからです。
当事務所では,離婚調停段階からのご依頼が大部分を占めており,調停手続における豊富なノウハウを持った弁護士が対応にあたらせていただいております。離婚協議に行き詰まり感じ,調停を検討されている方,離婚調停をご自身でされていいて不安を感じられている方,相手に弁護士が就いたため弁護士への依頼をご検討の方は,是非ご相談下さい。

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執筆者情報

下川絵美(広島弁護士会)
下川絵美(広島弁護士会)
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