女性が離婚を決めた場合にまず行うべきこと
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はじめに
多くの女性にとって,離婚は、人生における大きな決断です。特に、ご自身の経済的な基盤が整っていない場合や、夫の言動に日常的におびえているような場合には、離婚に向けて何から始めれば良いのか分からず,将来に対する不安から離婚を躊躇される方もおられるかと思います。
このコラムでは、離婚を決めた女性が最初に行うべきこと、その後の交渉や調停に進むための具体的なステップについて詳しく解説します。しっかりとした準備を行うことで、離婚後の生活を安定させ、自立した新たな一歩を踏み出しましょう。
離婚を決めたらまずすべきこと
離婚を決断した際に最初に行うべきことは、以下のような基本的な準備です。これらのステップをしっかりと踏んでおくことで、後々の交渉や法的手続きがスムーズに進みます。
離婚後の経済的基盤の確認と準備
離婚後の生活を安定させるためには、まず自分自身の経済的基盤をしっかりと確認し、準備を進めることが重要です。多くの女性が離婚後に直面する経済的な問題を避けるために、以下のステップを考慮することが必要です。
(1)収入の確認と計画
現在の収入源を把握し、離婚後の生活費をどのように賄うかを計画します。専業主婦であった場合や収入が限られている場合は、今後の収入を確保するための具体的な手段を検討することが重要です。例えば、就職活動やスキルアップを目指すための学習、あるいは公的支援制度の利用を視野に入れます。
なお,離婚後,ご自身がお子様の親権者となる場合には,夫に対し,お子様の養育費を請求することが可能です。養育費は,双方の年収をもとに,裁判所の算定表を利用して算出された額となることが一般的ですので,現在の双方の収入だと,養育費がいくらになるのかを計算しておくことも必要です。
また,離婚成立まで時間がかかりそうな場合で,夫から生活費を十分にもらえていない場合には,離婚成立までの間,婚姻費用を請求することで,当面の生活費を確保することが可能な場合もありますので,ご自身の現在の状況で婚姻費用が請求できるかにつき,弁護士にご相談ください。
(2)支出の見直し
離婚後の生活を支えるためには、現在の家計を見直すことが不可欠です。
特に大きな支出となるのは,住居費になるかと思います。離婚後,現在の住居に継続して居住するのか,出ていって新しい住居や実家に住むのか等,ご自身の収入状況と照らし合わせたうえで,住居を検討する必要があります。
その他,どこで生活費を節約できるか、今後の生活設計を具体的に考え、離婚後の生活に備えることが求められます。
(3)公的支援の確認:
また,離婚後,ひとり親世帯になった場合には,公的支援が受けられる可能性が高いと考えられます。
お住まいの自治体により,その内容は異なると思いますが,公的支援制度には、児童扶養手当や生活保護、住宅補助などさまざまなものがありますので,これらを利用することで、離婚後の生活を安定させることが可能か,確認しておく必要があります。
財産の把握と証拠の収集
離婚に際しては、夫との財産分与が大きな課題となります。特に、夫が高収入であったり、多くの資産を所有している場合には、その財産を正確に把握しておくことが必要です。以下の手順で準備を進めましょう。
(1)財産リストの作成及び証拠の確保
まずは,夫婦で共有している財産、夫が個別に所有している財産のリストを作成しましょう。銀行口座、不動産、保険、株式,不動産など,思いつく限りの情報を詳細に記録し、可能であれば関連する書類や明細をコピーしたり,スマートフォン等で撮影して画像を残しておくことが重要です。一度離婚を切り出してしまうと、夫が財産を隠すことも考えられるからです。
もし,書類が手元にない場合でも,弁護士にご依頼された場合や,裁判所の調停手続を利用した場合には,リストを手がかりに,弁護士会の23条照会や裁判所の調査嘱託により,夫の財産を調査することが可能ですので,証拠がない場合でも,可能な限り夫が保有している財産を把握しておきましょう。
(2)専門家の相談:
財産の把握や証拠の収集に不安がある場合は、弁護士やファイナンシャルプランナーに相談することを検討しましょう。専門家のアドバイスを受けることで、効果的な証拠収集と財産分与の計画を立てることができます。
DVを受けている場合の対応
もし夫からDVを受けている場合、離婚を切り出す前に自身の安全を確保することが最優先です。一切の準備をしない状態で離婚を切り出すことで,さらに暴力がエスカレートする可能性があるため、慎重な行動が必要です。
(1)安全な避難場所の確保:
まず、親族や友人の家、または女性保護施設に避難する計画を立てましょう。
広島市の場合,広島市配偶者暴力相談支援センターにて相談も受け付けています。詳細は広島市のウェブサイト等もご確認いただければと思います。
参考:https://www.city.hiroshima.lg.jp/site/kurashisodan/10239.html
(2)DVの証拠を収集:
実際に暴力を受けてから日が浅い場合には、すみやかに医師の診断書を取得し、かつ,警察への通報履歴も残しておくことが重要です。これらの証拠は、離婚調停や裁判での大きな証拠となります。DV被害者としての証拠を確実に残しておくことで、法的手続が有利に進む可能性が高まります。
診断書や通報履歴以外の証拠として,あなたが日常的につけている日記や,夫があなたを罵倒している音声等も,一定程度の証拠になりえます。
(3)保護命令申立
また,DVを受けている相手との接触を回避したい場合には、裁判所に対し,保護命令申立を行うことにより,夫があなたや子ども,親族等に接近することや,電話等を行わないよう禁止命令を裁判所から出してもらうことが可能です。
これにより、夫からの暴力を避けながら、離婚手続を進めることができます。
離婚に向けた次のステップ
初期の準備が整ったら、次に離婚に向けた具体的な行動に移ります。以下では、離婚を切り出した後の交渉や調停に進むためのステップについて説明します。
夫へ離婚を切り出す
離婚を具体的に進めていくためには,配偶者に離婚の意思をはっきりと伝えることが不可欠です。
なかには,対面で配偶者に離婚を切り出すことがこわいという方もいらっしゃるかと思いますが,必ずしも対面で離婚の意思を伝える必要はありません。電話やメール,置き手紙等でも良いので,離婚の意思を伝えるようにしましょう。弁護士に依頼し,ご自身の代わりに離婚の意思を書面で通知してもらうという方法もあろうかと思います。
また,同居中の場合,配偶者に離婚の意思を伝えても,離婚条件をまともに話し合うことが困難というケースもあろうかと思います。その場合には,円滑に離婚の話し合いを進めるために,先に別居をすることも選択肢のひとつです。
もっとも,何も言わずに出ていくと,裁判上の離婚事由のひとつである「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)に該当するおそれがあり,警察等に捜索願を出されてトラブルにもなりかねませんので,その際も,対面や電話、メール、置手紙等で離婚の意思を伝えておく必要があります。
弁護士への相談
夫へ離婚を切り出した後,当人同士離婚をスムーズに進めるためには、弁護士のサポートを受けることが考えられます。特に、財産分与や親権、慰謝料などの問題を抱えている場合は、専門的な助言が必要です。
(1)弁護士の選定
弁護士を選ぶ際には,離婚問題に詳しい弁護士を選びましょう。弁護士によって立てる方針も異なってきますので,自分に最も適した弁護士を選ぶことが重要です。その際,経験や実績もさることながら,弁護士との相性,すなわち,ご自身が信頼できる相手かどうかどうかを基準にするのもよいと思われます。
(2)今後の方針の確認
弁護士と相談し、離婚交渉をどのように進めるか、調停や裁判を視野に入れるべきかどうかを確認します。その際,どのように進めたいかあなた自身のご意向をあらかじめきちんと伝えておくことが重要です。
弁護士は、あなたのご意向を踏まえ,状況に応じた適切な進め方を提案し、円滑なに離婚交渉が行えるようサポートします。
離婚交渉の開始
離婚を切り出した後、夫との交渉が始まります。この段階では、財産分与、親権、養育費、慰謝料など、さまざまな事項について話し合いが行われます。各離婚条件を検討する際に留意すべき事項は以下のとおりです。
(1)親権
お子様がいらっしゃる場合、親権をどちらが持つかを必ず決める必要があります(2024年8月26日現在)。
仮に親権について争いがあった場合,裁判所は、これまで主に子ども達を養育してきた者が誰なのかによって親権者を決する場合が多いため,一般的には,母親に親権が行くことが多いと考えられます。特に,お子様がまた未就学児の場合には,母親が子どもを虐待している等,特段の事情が無い限りは,親権者は母親となります。
したがって,離婚交渉において,自らが親権を取得したい場合には,安易に譲歩せずに強く主張していきましょう。
もっとも,お子さんの年齢が大きい場合で,父親と暮らしたい意思が強い場合には,例外的に親権者が父親となることもあります。
なお,共同親権については,2024年8月26日現在,改正民法が施行されておらず,施行されてしばらくの間は,どのような運用になるか不透明な部分があります。
共同親権を選択した場合,お子様に関する事柄を元夫婦で話し合うことが前提となりますので,少なくともお子様に関する事柄に関して,離婚後も(元)夫と話し合いが可能なのか,慎重に見極める必要があります。
(2)養育費
養育費の額は,双方の合意があればいくらであっても問題ありませんが、仮に合意が難しい場合には、双方の年収をもとに,裁判所の算定表を利用して算出された額となることが一般的です。
また、養育費の終期については、双方の合意に基づき、高校卒業時である18歳とする場合もあれば、大学卒業時である22歳とする場合もありますので、あらかじめご自身の希望を考えておく必要があります。
(3)面会交流
離婚後、親権者ではない方の親と子どもたちは、面会交流を行う権利がありますので、面会交流を実施すべきでない特段の事情がない限りは、離婚後、どのように面会交流を行うかについても、あらかじめ定めておく必要があります。
元夫婦間の連絡に問題がない場合や、親子間で面会交流の日程調整を行っても支障がない年齢の場合には、当事者の協議で自由に面会交流を行うという定め方をする場合もありますが、そうでない場合には、最低限、面会交流の頻度(月1回や2ヶ月に1回等)、1回の面会交流の時間等を定めることが一般的です。
離婚後、面会交流が実施されない場合には、子どもに会えていない親から面会交流調停の申し立てを行うことが可能ですし、長期間の面会交流の拒絶を理由に、親権者変更の調停を申し立てることも考えられますので、離婚後、親権者となった場合には、正当な理由なく面会交流を拒絶し続けることは避けた方がよいでしょう。
(4)財産分与の交渉
結婚後、同居中に夫婦で築いた財産については,折半するのが原則です。
前述のとおり、離婚前に別居を検討されている場合には,別居前に,可能な範囲で配偶者の財産に関する手がかりを探しておくことが必要です。
他方、お子様の財産についても、原則としては、財産分与の対象となりますが、夫婦間の協議により、財産分与の対象から外すケースもありますので、お子様の財産を財産分与の対象から外すことを希望する場合には、あらかじめ主張しておくことが必要です。
(5)慰謝料の請求
夫の不貞行為やDVが原因で離婚を決意した場合、慰謝料の請求も検討すべきです。
もっとも、少なくとも裁判離婚で慰謝料を請求するためには,客観的証拠が必要ですので,たとえば,DVの場合には,受傷直後の診断書及びケガの写真,日記等により日常的なDVを立証するための資料を,不貞の場合には,配偶者が不貞関係にあったことが分かる写真やLINEのやり取りを入手しておく必要があります。
調停離婚や協議離婚の場合であっても、調停委員や配偶者から資料の提出を求められることがありますので、できるだけ有利な条件で離婚するという観点からも、客観的な資料をできる限り収集・保管しておくことをお勧めします。
(6)年金分割
離婚する際には,婚姻期間中の厚生年金記録を当事者間で分割することができます。
婚姻期間が10年以上の長期間に及ぶ方,特に,専業主婦やパートで働いている方で,夫婦間に収入格差がある場合には,配偶者の厚生年金記録を分割することにより,より多くの年金額を確保することができますので,年金分割を希望される場合には,忘れずに請求しておきましょう。
なお,仮に年金分割の協議が整わなかった場合には,離婚後2年以内であれば,家庭裁判所に対し,年金分割調停または審判の申立を行うことも可能です。
調停や裁判への移行
交渉がうまく進まない場合や、夫が協力的でない場合には、調停や裁判に移行することも視野に入れなければなりません。
(1)調停の利用
配偶者に離婚する意思がない場合や,離婚条件が協議でまとまらなかった場合には,家庭裁判所に調停を申し立て,裁判所を介して,離婚の有無及び離婚条件を話し合うことになります。
調停は、中立的な第三者(調停委員)が介入し、双方が合意に達するための話し合いをサポートする制度です。調停は非公開で行われるため、プライバシーを守りながら問題を解決することができます。
離婚調停申立後は,月1~2ヶ月に1回の頻度で期日が設定され,申立てから解決(調停成立)までに短くても半年程度は要することになりますが、裁判所から調停に出席するよう手紙が届くため、裁判所を介しない離婚協議と比較して、配偶者がこちらの連絡を一切無視するという事態は、避けられる可能性が高くなります。
もっとも,離婚調停も、いくら裁判所を介しているとはいえ,当事者間の話し合いですので,双方の間で最終的に合意が得られなければ,調停は不成立となります。調停が不成立になるケースは多くはありませんが,不成立になった場合には,裁判によって離婚を目指すこととなります。
(2)裁判の準備
裁判による離婚が認められるためには,以下のとおり、裁判上の離婚事由(民法770条1項)が必要です。
一 配偶者に不貞な行為があったとき
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき
三 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
五 その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき
このうち、配偶者の不貞行為やDV等、明らかな有責性が認められない場合には,「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」(5号)として、婚姻関係が破綻していることを立証する必要があります。そのため、配偶者の不貞行為やDV等がない場合には、婚姻関係が破綻していることを立証するため、早くから別居しておくことが必要です。
一般的に、裁判上の離婚に必要な別居期間は、3年~5年程度と言われていますが、どの程度の別居期間をおけば確実に離婚できるかは、個別事情によって異なりますので、ご自身のケースでどのくらいの別居期間が必要かにつきましては、あらかじめ弁護士にご相談ください。
離婚後成立後によくあるご相談
ご自身とお子様の氏
離婚後,お子様の戸籍を父親の戸籍から抜いて,自分の戸籍に入れたいというご相談をよくお受けいたしますので、離婚後のご自身及びお子様の氏(苗字)について説明いたします。
婚姻中,夫の氏を称していた場合,離婚後,何の手続も取らなければ,自動的に婚姻前の氏に戻ります(民法767条1項)が,婚姻中の氏を継続して使用したい場合には,離婚から3ヶ月以内に届出をすることにより,婚姻中の姓を称することもできます(同条2項)。
他方,お子様の氏については,手続を取らない限り,婚姻中に使用していた氏をそのまま称する(=父親を筆頭者とする戸籍に入ったまま)こととなります。
ご自身と同様,お子様の氏も旧姓に戻されたり,ご自身が婚姻中の氏を名乗ったうえで,お子様の戸籍を母親を筆頭者とする戸籍に移動させたい場合には,家庭裁判所に,子の氏の変更許可の申立を行う必要があります。
子の氏の変更許可に期間制限はありませんが,母親がお子様の代理人として申立てをできる年齢は15歳未満に限られています。15歳以上のお子様は,ご自身の意思で,どちらの氏を称するのか決めたうえで,お子様ご自身で家庭裁判所に申立てを行う必要があります。
養育費が支払われなくなった
離婚後,養育費が支払われなくなった場合,公正証書や調停調書が存在する場合には,これらの書面に基づいて,元夫の給与債権や預金債権に強制執行をかけることが可能です。
特に,養育費に関しては,裁判所から債権差押命令が出された場合には,将来分の養育費についても差押えの対象となり,支払期限が来る度に,取立が可能となります。
また,調停または審判により定めた養育費を支払わない場合には,家庭裁判所に履行勧告の申出をすることにより,相手方に取り決めを守るよう説得したり,勧告してもらうことも可能です。
もっとも,養育費が支払われなくおそれが高い相手の場合,裁判所の履行勧告にも応じず,任意で支払ってくれる可能性は高くありませんので,もしもの場合に備えて,いつでも強制執行ができるよう,勤務先や預金について,離婚前にできる限り把握しておくことが重要です。
当事務所がサポートできること
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