不貞行為以外を理由に慰謝料請求できる?相場は?【弁護士が解説】
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離婚の際,相手に対して慰謝料請求を希望される方は少なくありません。
相手の行為によって精神的な苦痛を受けた場合,その損害を慰謝するために求めるのが慰謝料です。
まず,慰謝料はどのような理由で請求することができるのでしょうか?離婚に際して行う慰謝料請求の根拠・内訳について解説します。
離婚の際の慰謝料の種類
離婚の際の慰謝料請求を分析すると,以下の2つの精神的苦痛に対する慰謝料という要素に振り分けることができます。もっとも,実務上は,それぞれの慰謝料額を算出するのではなく,離婚に際する慰謝料としてまとめた金額を定めます。
① 相手の行為を原因として,「離婚をしなければならなくなったこと自体による精神的苦痛」に対する慰謝料
② 「相手の行為(不貞等)それ自体から生じる精神的苦痛」に対する慰謝料
離婚をせずに慰謝料請求ができる?
以上の要素を見ていただければ分かるとおり,離婚をせず婚姻関係を継続した場合であっても,②の要素(相手の行為それ自体から生じる精神的苦痛)による慰謝料請求はできるということになります。
もっとも,裁判所は,①の離婚による精神的苦痛という要素を重視しますので,離婚をしない場合に受け取れる金額は,離婚をする場合と比較してどうしても少なくなります。
離婚の際に慰謝料請求を行う典型的事案としてすぐに思いつくのが不貞行為による慰謝料であると思われます。
どのような場合に不貞慰謝料請求が認められるのかについては,不貞慰謝料のページもご覧下さい。
これに対して,不貞行為以外の理由により,配偶者に対して慰謝料請求をすることができるのでしょうか?また,その際の相場はいくらくらいになるのでしょうか。
以下解説します。
【悪意の遺棄】
この点,悪意の遺棄とは,無断で別居する,家事・育児を全くしない,生活費の分担を拒否するなど,正当な理由なく夫婦の同居義務・協力義務・扶助義務を放棄する行為のことを指します。
悪意の遺棄によって慰謝料請求が認められるのかについては,配偶者を放置して別居した経緯,別居期間の長さ,収入や生活費を渡さなかった期間,双方の収入や健康状態,子の有無及び年齢,遺棄された側の健康状態等が考慮要素とされます。
請求が難しいケースも多いものの,50万円程度の慰謝料が認められる場合や,遺棄の態様がひどいもので500万円の慰謝料が認められた事案もあります。以下に,悪意の遺棄について判断した裁判例を記載しますのでご参考下さい。
・東京地裁平成28年2月23日判決
反訴被告の横暴な言動が原因で別居に至り,最終的に婚姻費用を全く支払わなくなったこと(悪意の遺棄)が最後の引き金となって,婚姻関係が破綻した事案につき,婚姻関係が破綻した原因や経緯,破綻するまでの別居期間が長期間であること,反訴被告がすでに支払った財産分与や未払い婚姻費用を考慮し,50万円の慰謝料を認めた。
・東京家裁立川支部審令和2年3月12日
レーベル病という難病を発症し,その後失明した妻を夫が遺棄したという事案であり,小学生の2人の子どもも自宅に残し,また,競売で自宅を失いかねない事態を招いた。認められた慰謝料額は500万円。
以上の様な裁判例の傾向からすれば,病気等の理由により働けないなど経済的不安のある配偶者に対して,金銭的給付を行わない場合には,悪意の遺棄として慰謝料が認められる可能性がある一方で,経済的余裕がある方の当事者から,他方配偶者へ悪意の遺棄を主張しても,慰謝料は難しいかもしれません。
【DV】
DVによる慰謝料については,暴力行為の具体的な態様,期間,回数や頻度,傷害の内容や程度,暴力行為に至った経緯,その後の相手方の態度などを考慮要素とし,金額が算定されることになります。
相場としては,200~300万円の慰謝料が認められるような事案もありますが,100万円台となることが多いようです。
ただし,怪我の程度が重い場合や,通院に要した期間が長い場合などは,高額となり得ると考えられますので,個別にご相談いただければと思います。
【モラルハラスメント】
近年,配偶者のモラハラに耐えかねて離婚を考えているというご相談を頂くことが増えています。
モラルハラスメントについては,継続的に行われる行為であったり,二人きりの空間で行われる行為であることから,そもそも証拠が乏しかったり,どの程度の言動があれば,慰謝料請求の対象となるような精神的虐待と評価できるのかといった難しい問題があります。
慰謝料請求の可否を判断するに当たっては,具体的な発言内容,頻度や回数,侮辱的な発言をするに至った経緯等が考慮要素となります。
認められる金額としては,身体的な暴力があった場合よりも,低額になることが多く,50万円~100万円程度が相場と考えられますが,モラハラによって精神疾患になったなどの実害が生じた場合には,慰謝料額が高額になることもあります。
以下,比較的高額な慰謝料請求が認められた裁判例を紹介します。
・横浜家審令和3年3月17日
夫は妻の言動に不満があると,妻に対して「非常識だ」「間違っている」「価値がない」「普通に考えればわかるだろ」などと言って妻を徹底的に批判し,「クズ」「カス」などと言うこともあったほか,夫が骨折して入院した際には,妻に対して「殺す,殺すしかない」などと言った。妻は,このような夫の言動により,抑うつ気分,情緒不安定,希死念慮等の精神的不調を呈し始め,精神科を受診し,投薬治療を始めた。夫は,妻の就寝中に長女(当時3歳)を連れ去ったあと,長女が帰りたがらないと言っているとして長女を帰さず,長女を妻に引き渡すよう命じる複数の審判等にも従わず,長女を被拘束人とする人身保護請求を妻が取り下げなければ一生会わせないなどとする手紙を妻に交付し,長女とともに居所を明かさない状態にあるという事案において,慰謝料180万円が認められた。
こちらの事案においては,夫が,長女を連れ去り,引き渡しを命じる複数回の審判にも従わず(長女を引き渡さず),そればかりか,人身保護請求を取り下げなければ長女と一生会わせない等と主張していたといった事情があるため,そちらが重視された可能性もあります。しかし,モラルハラスメントについては,相手がどのような酷い言動を行っていたのか,それによって,あなたがどのような状態に陥ったのかが,ケースバイケースであるため,上記裁判例のような事情がなくとも,同程度に酷い状況であると判断される可能性もあります。
このため,モラルハラスメントによる慰謝料請求をご検討の方につきましては,ご自身のケースについて慰謝料請求ができそうか,また,請求できたとしてどれくらいの金額が認められそうかについて,弁護士に個別相談いただくことをおすすめします。
お早めにご相談下さい。
離婚に当たっては,ご自身のこれまで受けてきた精神的苦痛について,正当な慰謝料を求めたいと考えるのは当然のことです。
不貞行為やDVはもちろんのこと,それ以外であっても,配偶者の行為が原因で精神的苦痛を受けてこられた方につきましては,離婚に当たって,相手方に慰謝料請求ができる場合があります。
今後の経済的不安を少しでも払拭するため,また,過去に区切りを付けてこれからの人生を前向きに歩んでいくために,相手に対する慰謝料請求を検討されるという方もおられます。
当事務所には,慰謝料請求に精通した弁護士が複数名所属しておりますので,離婚に際して,相手方に慰謝料請求をご検討の方につきましては,下川法律事務所にご相談いただければと思います。
執筆者情報
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