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経営者の離婚において注意すべきこと【弁護士が解説】

この記事を読むのに必要な時間は約 8 分です。

1 はじめに

会社の経営者が離婚をする際、1番に注意すべきことは、財産分与です。

経営者の財産には、株式をはじめとする会社関係の財産も含まれています。

一般的な財産分与の事案と比べて異なる場合がありますので、注意が必要です。

以下、財産分与をはじめ、経営者が離婚をする際に注意するべきことについて、解説します。

 

2 財産分与

⑴ 財産分与とは

財産分与とは、夫婦が離婚した場合に、その一方が、婚姻中に形成した財産を清算するため、その分与を求めることをいいます。そして、財産分与の割合は、原則として2分の1となります(「2分の1ルール」)。

⑵ 2分の1ルールの例外

具体的な状況によっては、財産分与の割合に関する「2分の1ルール」が修正される場合があります。

例えば、夫婦の一方が特殊な技術・能力などに基づいて会社経営上の成功を収め、それにより極めて高額の資産が形成されていた場合は、その財産は夫婦の一方の固有の能力に基づいて形成された部分が大きいとして、財産分与の割合が修正される場合があります。

⑶ 会社名義の財産

ア 原則

会社が法人化されている場合には、会社名義の財産は、会社経営者の財産とは別物と扱われることになります。したがって、会社名義の財産は、原則として財産分与の対象となりません。

イ 例外

もっとも、法人の実態が、個人経営の域を出ず、実質上夫婦の一方または双方の資産と同視できる場合には、会社名義の財産であっても、会社経営者個人の財産と評価した上で財産分与の計算において考慮される可能性があります(下記裁判例①)。

裁判例①:広島高裁岡山支部判決平成16年6月18日

夫が婚姻後に立ち上げた会社の名義の財産について、裁判所は、当該会社が閉鎖的な同族会社であること、妻が会社の事業を手伝い、経理事務を担当していたことから、会社名義の財産の取得原資は夫と妻の協働により得られたものであること、といった事情を考慮して、名義にかかわらず、会社名義の財産も財産分与額算定の基礎財産とすべきであるとしました。

一方で、実質的に個人企業と異ならない状況であっても、形式的には会社名義の財産である以上、財産分与に際して考慮しないと判断した裁判例(裁判例②)も存在するため、注意が必要です。

裁判例②:東京高裁判決昭和57年2月16日

夫が婚姻後に立ち上げた会社の名義財産について、裁判所は、当該会社は夫とは別人格の法人である以上、それが夫の個人企業と実質的に異ならないとしても、同会社の資産及び営業利益が法律上当然に夫個人の資産及び利益となるものではないから、これらは財産分与の対象外であるとしました。

⑷ 自社株を分与するとき

夫婦の一方が株式会社を経営している場合、夫婦の一方が持っている自社株も財産分与の対象となる場合があります。株式を分与する場合、その評価をどうするかが問題となります。

市場価格のある株式については、インターネットや経済新聞などで時価を把握することができます。しかし、取引相場のない株式を評価することは簡単ではありません。

取引相場のない株式の正確な評価額を求める方法としては、公認会計士による鑑定がありますが、高額の費用がかかってしまい、そのぶん分与できる財産も減ってしまいます。

そこで、「純資産価額方式」や「配当還元方式」などの簡易的な評価方法をとることも可能です。「純資産価額方式」は、会社の純資産額を発行済株式数で割る方法、「配当還元方式」は会社の配当金額を基準として、これを発行済株式数で割る方法です。

なお、相手に自社株を譲ると会社の経営権も分散してしまうことになるため、その点にも注意が必要です。自社株は分与せず、そのぶん他の財産を分与することで調整することも考えられます。

 

3 婚姻費用・養育費

経営者である配偶者に養育費や婚姻費用を請求する際は、収入が多いゆえの問題があります。

⑴ 算定方法

養育費・婚姻費用について、夫婦で話し合っても額を決定できない場合には、裁判所が公開している「養育費・婚姻費用算定表」を用いて額を算定することが多くあります。

これは、夫婦それぞれの年収、子どもの人数などをもとに標準的な金額を算定する方法です。

しかし、「養育費・婚姻費用算定表」の上限は、給与所得者の場合は年収2000万円、自営業者の場合は年収1567万円となっています。算定表の上限を超える所得がある場合、養育費・婚姻費用はどのように算定されるのでしょうか。

ア 婚姻費用

婚姻費用については、算定表の上限で計算した額をそのまま採用する方法や、算定表の本となっている計算式を用いて算出する方法があります。

収入額によっては、算定表上の上限額を採用した方が支払う額は少なくなることから、どちらの方法を採用するかについて、双方で争いとなる可能性があります。

イ 養育費

一方で、養育費については、給与所得者であれば2000万円、自営業者であれば1567万円の上限額を基準にして算出します。なぜなら、養育費は、収入が増えても、それに比例して無制限に増加することはないと言えるからです。

ただし、収入が著しく高い場合には、高度な技量を持つ専門家の家庭教師をつける場合や海外留学させる場合など、特別に費用を要している場合もあるので、この場合はそれを考慮して養育費を増額することになります。

 

4 配偶者の雇用

夫婦の一方が会社を経営している場合、その配偶者が役員や従業員として働いているという場合もあります。

離婚を検討する場合、経営者とその配偶者の関係は悪化しており、経営者としてはその配偶者を退職させようと試みることがあります。

⑴ 配偶者が役員の場合

配偶者が従業員としての地位を兼務しない役員である場合、株主総会の決議さえあれば、解任させること自体は可能です(会社法339条1項)。

もっとも、解任に「正当な事由」がない場合は、配偶者から損害賠償請求をされる可能性があります。なぜなら、会社法339条2項が、以下のように定めており、離婚するという事由だけでは、「正当な事由」には該当しないと考えられるからです。

会社法339条

1 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。

2 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。

⑵ 配偶者が従業員の場合

配偶者が従業員としての地位を有する場合、離婚を理由として解雇することは難しいでしょう。なぜなら、労働契約法第16条が以下のように定めており、離婚問題は業務遂行能力と関連性が乏しいため、「客観的に合理的な理由」があるとは言いがたいからです。

労働契約法16条

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

そこで、いきなり解雇をするのではなく、退職勧奨を行いつつ、合意退職をしてもらうことが一番穏当な手段であると考えられます。

 

5 下川法律事務所にご相談ください

経営者の離婚は、財産分与や婚姻費用・養育費、配偶者の雇用の問題等、ケースごとに判断することが多くあります。

経営者の離婚についてご検討されている方につきましては、下川法律事務所にご相談いただければと思います。

執筆者情報

下川絵美(広島弁護士会)
下川絵美(広島弁護士会)
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