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有責配偶者から離婚請求された方へ

この記事を読むのに必要な時間は約 11 分です。

1 応じなければならない?

有責配偶者とは,裁判上の離婚原因を作った方の配偶者のことをいいます。

典型的には不貞行為であり,不貞行為を行った夫(妻)が,離婚をしないと言っている妻(夫)に離婚を申し入れる場合が,有責配偶者からの離婚請求です。

そのような場合,離婚をしたくない妻(夫)は,離婚に応じなければならないのでしょうか?

配偶者が不貞行為をしていたら,重大な裏切り行為なのですから,多くの場合,一度は離婚したいと考えるでしょう。

ですが,物事はそんなに単純ではありませんので,例えば,「一度は裏切られたけど,相手のことが嫌いにはなれずもう一度信じてみたい」「子ども達のためにも配偶者が必要」「離婚をした場合の経済的不安が大きい」等の理由から,離婚を思いとどまる方も多くいらっしゃいます。

このように,不倫をされた方が,今回は,相手を許してやり直そうと考えているのにもかかわらず,不倫をした方が,「離婚して人生をやり直したい」「不倫相手と結婚したい」等として,離婚を請求する場合があるのです。

被害者の方が許すと言っているのに,加害者がこれを振り切って離婚したいというのですから,これではあまりに理不尽で,被害者が気の毒です。そのような考え方を背景に,以前は,有責配偶者からの離婚請求は,裁判所では認められないのが原則とされていました。

しかし,婚姻関係が完全に破綻しているにもかかわらず,法律上の婚姻関係のみを継続させることが当事者双方にとって必ずしも合理的でないという考えから,近年では,一定の事情がある場合には,裁判上も,有責配偶者からの離婚請求が認められることがあります。ただし,加害者側からの離婚請求なのですから,これが認められるためには,厳しい条件をクリアする必要があるのです。

 ですから,有責配偶者から離婚を請求された際,あなたが離婚をしたくないというのであれば,ひとまず,これに応じる必要はありません。

きっぱりと離婚はしないという意思を示しましょう。相手方がいくら離婚をしたいといっても,次項の厳しい条件をクリアしない限り,裁判所は離婚を認めないからです。

2 有責配偶者からの離婚が認められるケースとは

それでは,有責配偶者からの離婚請求が認められるためにはどのような条件が必要とされているのでしょうか?

これについては,最高裁が出した昭和62年9月2日判決が基準とされていますので,紹介します。
① 別居期間が相当長期(当事者の年齢や同居期間との対比)

② 夫婦間に未成熟子がいない

③ 離婚によって,相手方配偶者が過酷な状態にならない(主に経済的に)

>>離婚に必要となる事由

 

・「別居期間が相当長期」とは?

ここで必要とされる別居期間は,同居期間との対比で決まるので,同居期間が長ければ長いほど,別居期間も長く必要となります。

実務においては,6年程度で離婚が認められることもある一方で,24年の別居生活があっても離婚が認めらないこともあり,ケースバイケースですが,目安としては,10年程度の別居期間は必要でしょう。

>>別居が続いている場合

・「夫婦間に未成熟子がいない」とは?

未成熟子とは経済的に自立していない子どものことです。

裁判所としても,有責配偶者からの離婚請求を認めることで,経済的に保護が必要な子どもが見捨てられた状態を作ってしまうのは避けたいという問題意識があります。

このため,未成熟子がいないか,いる場合であれば,有責配偶者が手厚い経済的支援をすること等が必要となるでしょう。

・「離婚によって,相手方配偶者が過酷な状態にならない」とは?

最高裁の判例では,他方配偶者が「精神的・社会的・経済的」に過酷な状態に置かれないこととされていますが,実務では,その中でも,経済的な部分が最も重視されています。

有責配偶者からの離婚請求によって,他方配偶者が離婚後生活できない状態に追い込まれるのはあまりに不合理です。

このため,離婚後に他方配偶者が生活に困らない状況にあることが重要です。

他方配偶者が,定職を持っており経済的に安定している等の事情が必要でしょう。

そうでない場合には,有責配偶者の方が,多額の財産分与や慰謝料等を支払って,他方配偶者を経済的に安定させることが必要でしょう。

他方で,かなり長期の別居期間があるにもかかわらず,その間,婚姻費用をろくに支払っていなかった場合,有責配偶者からの離婚請求が否定された事案も存在します。このことからすれば,別居期間中,有責配偶者がきちんと婚姻費用を支払っていたかどうかも考慮要素となるでしょう。

3 離婚したくない場合の対応

・はっきりとした意思表示

有責配偶者から離婚を請求された場合,あなたが離婚をしたくないのであれば,まずは,きっぱりと離婚しないという意思を示しましょう。

その後の流れとしては,相手が調停を申し立ててくるかもしれませんが,そこでも離婚はしないという意思をしっかり示しましょう。

・婚姻費用について

離婚に応じない場合でも,有責配偶者が家を出て行き,別居になるかもしれません。
それを機に,生活費を支払ってもらえなくなることも想定されますので,その場合は,裁判所に婚姻費用の調停申立をして別居中の生活費を確保することが必要です。

あなたが離婚に応じない限り,裁判で離婚が認められるまでは,生活費を支払ってもらえるという意味で,有効な対抗策といえるでしょう。

>>婚姻費用について

・調停不成立と裁判

相手から調停を申し立てられても離婚に応じなければ,調停は不成立となり,裁判を起こされるかもしれません。

ですが,有責配偶者の方からの離婚請求が裁判で認められるためには,前項で述べたような厳しい条件を満たす必要があります。そのため,依然として,あなたの方に有利な状況であることに変わりなく,判決で離婚が認められるまでは,離婚には応じずに婚姻費用を受け取り続けるという選択肢もあります。

・離婚届不受理届,

有責配偶者から離婚を求められ,これに応じない場合,勝手に離婚届を提出されないように注意しなければなりません。

他方配偶者が同意していないにもかかわらず,勝手に提出された離婚届は無効ではありますが,役所では勝手に出されたものかどうかなどの実質的な審査はしません。このため,提出された離婚届は記載漏れ等の不備がない限り受理されてしまい,形式的には離婚が成立してしまいます。

このように一度形式的に離婚が成立してしまうと,これが無効であると証明する手続には大変な労力がかかります。このため,その労力との比較で無効の主張をあきらめざるを得ない方もおられます。

このため,十分な話し合いをせずに勢いで離婚届を書いてしまった,一度は離婚しようと思ったが気が変わった等,有責配偶者が記入済離婚届を持っているような場合,あるいは,有責配偶者が勝手に記入して提出してしまう恐れがある場合には,あらかじめ,離婚届不受理届を出しておくことが重要です。

離婚届不受理届は,不受理届を出した本人が出頭して離婚届を提出したことを市町村長が確認できない場合,離婚届が受理されないよう届け出る制度です

離婚届不受理届に期間制限はなく,取り下げるまでその効力が続くため,ご不安のおありの方は,念のため提出しておくと良いでしょう。

4 離婚をするなら有利な条件で

有責配偶者の離婚意思が堅い場合,いつまでも拒否することでかえってストレスが持続してしまう,人生のリスタートができないという問題が生じることもあります。

また,ずっと離婚を拒否していても,たとえば別居期間が延びてしまうことなどで,有責配偶者にとって離婚が認められやすい状況ができていくこともあります。

他方で,有責配偶者からの離婚請求は,上記のとおり厳しいのですから,有責配偶者は離婚してもらうために譲歩することが考えられ,離婚条件の交渉においては,あなたの方が有利な立場にあることは確かです。

この先の人生を考えると,有利な条件でできるうちに,有利な条件で離婚をしてしまうことも選択肢の一つといえるでしょう。

>>離婚問題を弁護士に依頼するメリット

5 最後に

有責配偶者からの離婚請求はとても理不尽であって,納得がいかない事態です。このため,そのような出来事に直面した場合,冷静になることは難しいかもしれません。

ですが,自棄になって,勢いで離婚届を提出してしまうようなことがあれば,後々後悔することになります。

まずは落ち着いて,ご自身が今後どうしたいのかについて考えましょう。

その上で,やはり現時点では離婚を考えることができないということであれば,婚姻費用の請求を行うなどして,当面の生活費を確保しましょう。その際,ご自身での手続にご不安を抱えておられるようでしたら,専門家である弁護士に相談しましょう。

また,有責配偶者に愛想を尽かして,離婚を選択する場合,今後の人生のために,少しでも良い条件で離婚をすることが大切です。その際の条件交渉はシビアなものが予想されますし,どの程度まで請求することが妥当であるか等の専門知識が必要となってきます。このため,有責配偶者と,少しでも良い条件で離婚をしたいとお考えの場合には,法律と交渉の専門家である弁護士へのご依頼をお勧めいたします。

>>弁護士費用

>>ご相談の流れ

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執筆者情報

下川絵美(広島弁護士会)
下川絵美(広島弁護士会)
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